1. タイヤから路面への荷重ベクトルは、ホイル中心から接地面への垂線となる。しかし、これは車が静止した状態だ。減速時の荷重を加えると、路面への荷重ベクトルに角度がつく筈である。
  2. キャスターを設けると、ステアした時、4輪の角断面タイヤは、ベタ接地(*1)しなくなる。が、減速コーナーイン時の様にフロントアウトに荷重を載せて車をロールさせると、フロントアウトのタイヤが荷重に抗しやすい姿勢をとっているのに気付く。
キャスター角の目的は「静止状態より減速時にグリップを上げ、(ロールの大きくなる)コーナー中盤〜後半にかけよく曲がるようにする」ことである。

「寝かせると直進安定指向となりハンドリングは悪くなる」というだけでは、キャスター角についての認識としては誤りである。(*2)(*3)

(準備中) (*1)路面に対し垂直な、いわばキャンバー0の状態。

(*2)直進性向上の目的も無くはないが、4輪車の10度程度のキャスター角で得られる直進性は、2輪車(スクラブ半径を持たないため20度前後の大キャスターまたはトレールを設ける)のそれに比べれば微々たるものだ。

(*3)直進性と言うより、直進復帰性と言う方が適切である。


一定の舵角とロール&ピッチに対し、最適なキャスター角は決まっている。逆に言えば、一定のキャスター角に対し、「最もよく曲がる舵角、ロール&ピッチ角度」も一定である。
キャスターが固定ならば、コーナーの任意のポイントで、最適ロール&ピッチを得られる、維持出来るようバネとダンパーを選べば、最もよく曲がる。


キャスター角を設けた場合、キャンバー角が不可欠だ。

キャスター有り・キャンバー無しの状態では、舵角0時以外はベタ接地せず、コーナリング中(最大荷重時)にエッジ接地となるためタイヤが偏摩耗する。また、ステア時(ベタ接地とエッジ接地が切り替わる瞬間)に車高変化を生じてしまう。

キャンバーをつけると、舵角が付いた時にベタ接地となり(ネガの場合コーナリング内輪側、ポジの場合コーナリング外輪側)、最大荷重時にベタ接地するためタイヤの偏摩耗が消える=タイヤは最大グリップをコーナリング中に発生するようになる。また、ベタ接地を最大舵角付近となる様セットすれば、ベタ接地とエッジ接地の遷移が平滑になり、ステア時の車高変化を無くすことができる。
4輪のタイヤが2輪と異なり角断面で良いのは、キャンバーを付けられるからなのだ。

キャンバー角の目的について、「ロール時に接地させるため」と考えている人が多いが、前輪に限って言えば間違いである。

(準備中) キャスター・キャンバー角が不適だとタイヤは偏摩耗する(当然フルグリップはしない)。最適なキャスター・キャンバー角は、タイヤがどの姿勢(舵角・ロール量)の時にもっとも載荷されているか、つまり走行条件(コースレイアウト、ライン、グリップ状態)によって異なるので、タイヤの摩耗を見ながら微調整しなくてはならない。

高速ハイグリップのオンロードレーシングに限って言えば、キャスターとネガティブキャンバーを多めに取るのが普通である。が、FFと4駆の場合は前輪が加速をも担うため、RWDに比べ前輪のキャスター・キャンバーは少な目で良い。キャスター・キャンバーは「静止状態ではなく減速旋回時に」グリップを上げるが、「(特に駆動輪が)静止状態から直進加速する場合」は、当然不利になるからだ。


キャスター・ネガティブキャンバーを大きく取ると、ベタ接地する舵角がより深くなる。コーナー内輪側はいずれベタ接地舵角に達するが、コーナー外輪側の外エッジはむしろ路面から離れていく。このため、
「内輪舵角>外輪舵角」
傾向を強調しなければならない(大アッカーマン・トーアウト・バンプアウト)。

すなわち、トー角について「トーアウトはコーナーインがスムースで、トーインは直進安定指向」という認識は不十分である。なぜならそれはキャスター・キャンバーと無関係に語れるものではないからだ。
キャスター・ネガキャンバーの大きいレーシングカーの前輪に限って言えば、トーインは"矛盾した選択肢"である。その効果は"直進性の改善"よりも、"タイヤの偏摩耗とドアンダー"に、より顕著に現れるだろう。


結局これらサスジオメトリも、グリップとスピードと曲がりたいコーナー、これに合った舵角とロール角、キャスター・キャンバー、そしてトー角...に、理に叶った最適値が概ね存在するものであって、個々の調整項目について、バラバラに「多いとどうなる、少ないとどうなる」などとという話をしてもダメ!なのである。